「般若理趣経」一巻を書写したもの。仏の正しい境地にたどり着く方法を説いた経典。平安時代後期の能書藤原定信(1088~1154?)は藤原行成を祖とする世尊寺流の第五世にあたり、本文と奥書の文字と内容から、久安6年(1150)定信63歳の筆跡であると判明している。
料紙は鳥の子紙に金の界線を引いたもの。書風は右肩上がりの独特な漢字で早書きしているようである。梵字は、仁和寺の御室と奥書にあることから覚法法親王の筆と分かる。
同書風としては藤原定信筆「和漢朗詠抄」の漢字の部分があてはまる。定信は、42歳から23年間かけて一筆一切経(約5000巻)を成し遂げた数少ない人物で、本書は能書と言われた定信の書を研究する上で根本的な史料である。